売れる命がある幸せ【演劇】

私は今まで「生きる意味」なんて考えたことがなかったし、考える必要もないと思っていた。

なぜなら、意味を考えてしまったら価値がついてしまい、価値がついてしまったら平等ではなくなるからだ。

 

高校の時、ちょうど授業中に東日本大震災を経験した。被災地ではなかったが、東北地方ではあったのでわりと大きな揺れだった。

落ち着くまで教室で待機している間中、「死んだら死んだでしょうがない」と小説を読んでいた。「怖くないのか」とひそひそクラスの男子の陰口(?)が聞こえた。

 

それぐらい、命、こと自分の命は価値がないものだと思っていた。

 

命売ります

11月29日、パルコ劇場にて「命売ります」観劇。

命売ります| PARCO STAGE

原作:三島由紀夫

演出:ノゾエ征爾

 

途中のミュージカル調はノゾエさんらしいと思った。歌詞が大袈裟でないのでくどくなかった。ちょうどいいエンタメにできあがっていた。歌にすることでファンタジーになる。

 

後で原作を読んで、主人公の気持ちを知ってファンタジーが現実に近づいた。命を売りたいと思ったきっかけは、「新聞紙の活字がゴキブリに見え、世の中が無意味に感じた」からだと言う。

 

恐らく大抵の人は生きることに何らかの意味があると感じて生きている。意味を見いだせていない者が意味を見いだせている者に命を売るのは至極全うなシステムで、需要と供給のバランスがいい。

 

ただ、物語の終盤で主人公は自らの生への執着心に気づく。

自殺でなく、「売る」という選択そのものが、意味を求めている象徴かもしれない。

 

この作品を通じて、私は改めて生きる意味、価値を考えた。

この人のために生きる、これを成功させるために生きる、そう思えたらいい。

ただ他の人に委ねるのはあまりにも自立心がなくつまらないのではないかと感じる自分がいる。

まだ答えは見つかっていないが、いい作品に出会えたと思う。

(☆☆☆☆)

 

 

命売ります (ちくま文庫)

命売ります (ちくま文庫)